コーチのバイブルと言っても大げさではない国際コーチング連盟のコア・コンピテンシーを読んでいると、「意味はわかるけど具体的にはどんなシーンのことを言うのだろう?」と思った事はありませんか?
私にも具体的なシーンがなかなか思い浮かばないところが何箇所かあり、そのうちの1つが「4.信頼と安全を育む」の6番の文章でした。
「Demonstrates openness and transparency as a way to display vulnerability and build trust with the client.
クライアントとの信頼を築くことができるように、自分の不完全さも見せるなどして、解放性と透明性を示している」
Display vulnerability
この文章で私が一番気になったのが「vulnerability 弱さ, 脆弱性」です。
「自分の弱みを見せて、オープンであることや透明性を示す、とは、どんなことを言うんだろう?」とずっとそのシーンが明瞭に浮かばないままになっていました。
事例1
そんなことを感じつつ、私のコーチにクライアントとして自分の話をしていた時、私のコーチがこんなことを言いました。
「頭がついていけなくなったのでちょっと仕切り直しをさせてもらってもいいですか?」
私のコーチは、話についていけなくなったのだと自分の弱みを隠さずに話してくれました。
これを聞いた時、”ちゃんとクライアントとつながっている状態に戻したい”というコーチの気持ちを感じ、これこそが4.- 6.そのものではないだろうかと感じました。
事例2
また、ある時、『コーチング・バイブル』を読んでいると、次のコーチの言葉に出会いました。
「すみません、今ちょっと頭が真っ白になってしまいました。もう一回先程言われたことを繰り返していただけますせんか?聞きそびれてしまったので」
そして、このコーチのセリフの後にこんな解説が書かれています。
「あなたはクライアントから意識が離れたことを隠し通せると思うかもしれませんが、クライアントは口に出さないとしても、あなたの意識がどこかに行ったことに気づいているのです。むしろ正直さが2人の強い関係を築くことにつながると言うことを、あなたがモデルとして示すのです」
ここの文章は、自分がクライアントの時のことを想像すると、よくわかります。
これは、話す相手がコーチであっても、上司であっても、家族であっても共通することですが、「相手が、今私と共にいるのか、意識がちょっと離れているのか」という違いを人は無意識に感じとります。
その違いが、話をどこまでオープンにできるのかという自分の意識に影響与えたという経験を持った方は少なくないのではないでしょうか。
自分の弱みを認める強さと自分への思いやり
人間は神様ではないので、意識が離れる事は誰にでもあります。
そんな時、「今ちょっと頭が真っ白になっていました。もう一度言っていただけますか?」と言ってくれた方が、「この人は私の話を真剣に聞いてくれている」と感じられます。
弱みを認め、それを言葉にし、クライアントとの関係性を信頼に満ちたものにする
これができるかどうかは、日ごろから自分に対してどれくらい思いやりを持っているのかという「セルフ・コンパッション」にも関係しているように思います。
自分を裁いていては、「あ、意識が飛んでいた。コーチとしてなんてことだ」とセルフトークが始まり、ますますあるべき姿から離れてしまいます。
「あ、意識が飛んでいた」とただ気づき、それを正直に伝え、マインドフルな状態に戻す
こう考えると、コーチとしてのブラッシュアップは、コーチングではないときの日常の会話のあり方の積み重ねではないかとも思います。
「ローマは1日にしてならず」
急にはできるようにはなれなくても、一歩ずつ前に進むことならできます。
・弱みを見せられるか
・自分にどれくらい思いやりを持てているのか
こんなことにもアンテナを立てていくことで、コアコンピテンシー4.- 6.が本当に腹落ちしてくるのではないかと思います。